インプラントとは、失われた場所に埋め込む医療器具・材料のことで医科の領域だと人工関節などもインプラントと呼ばれています。
歯科の領域では”口腔”インプラントとも呼ばれていますが、一般的にインプラントと呼んでいます。
歯科では、ムシ歯や歯周病、もともと永久歯の無い先天性欠如などで失われてしまった歯、顎の骨の欠損部位に対して、本来あった歯やその他の組織の代わりとして、人工歯根(インプラント体)を埋め込むことを指します。
インプラントの歴史は古く1900年初頭から始まっていると言われています。100年以上の歴史がありますが、現在のインプラント治療は1960年代スウェーデンのBrånemark(ブローネマルク)らによって骨内に埋め込まれたインプラント体が直接骨と結合するいわゆる「オッセオイン テグレーション」することが明らかにされ、これがインプラント治療に有効であるという研究結果に基づいています。
「オッセオインテグレーション」とは英語で”osseointegration”で“osseo”は「骨の」+”integration”は「一体化、結合」という造語になります。
定義としては、組織学的に光学顕微鏡レベルで骨とインプラント体が直接接触している状態で、あたかもインプラント体が最初からそこにあったかのように振る舞うようにはたらく状態を指します。
「オッセオインテグレーション」する材料はなんでもいいわけではなく、種類が決まっています。それが現在主に用いられている「チタン」と呼ばれる金属がそれを可能にしています。
チタンが用いられている理由としてオッセオインテグレーションするだけでなく、耐腐食性、加工性、生体親和性に優れているからです。
近年では、チタンの代わりにジルコニアと呼ばれるセラミックを用いる方法も出てきていますが、日本では薬事未承認のため使用は困難となっています。
インプラント治療の利点と欠点
利点 | 欠点 |
高い審美的、機能的回復が可能 | 外科的な侵襲が大きい |
治療にあたり他の歯を削る必要がない | 治療期間が長期に及ぶ |
長期間、良好な結果を得られる | 費用が高額になる |
利点として重要なことは隣合う歯を削らず、負担をかけず治療が可能ということです。
例えば、隣り合う歯が処置のしていない歯の場合、インプラント治療以外の治療法だと、多かれ少なかれ健康な歯を削らないと治療できません。
治療のしていない歯が1番ムシ歯にならないと言われているので、健康な歯は削らずに治療できるのがベストだと思います。
さらに、インプラント治療以外の方法だと失った歯の部分にかかるはずだった力を両隣の歯に負担してもらうことになります。そうすると、歯の寿命は短くなってしまいます。
欠点ではないですが、インプラント治療を行う上で知っておかなければならないこととして、イン プラントも歯周病になる可能性があるということです。「インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎」と呼ばれています。
インプラント周囲粘膜炎とは文字通りインプラント周囲の粘膜(歯肉)が腫れて、炎症を起こしている状態です。インプラント周囲炎とは粘膜だけでなく、インプラントを支えている骨にまで炎症が広がり、骨を溶かしている状態のことを指します。
これらの大きな原因として、セルフケア不足とメンテナンス不足が挙げられます。
年に数回の定期メンテナンスだけでは歯周病を防ぐことは困難です。デンタルプラークは毎日作られ、歯やインプラントに付着します。そのため、毎日のセルフケアが必須になります。これを怠ってしまうとインプラントだけでなく、ご自身の歯もムシ歯や歯周病になってしまいます。
なので、セルフケアをしっかり行なっていただき、定期メンテナンスではきちんと磨けているかや、磨き方の確認、目視ではわからないことはレントゲン写真などで骨の状態を確認しインプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎になっていないかなどをチェックしていきます。
インプラント治療を行う上で一番大切と言っても過言ではない項目が診査・診断になります。
全身疾患の有無、手術部位の状態(歯肉の状態や、骨の量・質など)、噛み合わせ、喫煙の有無、予想される治療効果と患者様の期待度とのギャップについてなどさまざまなことを考慮し、最適な治療計画を立案していきます。
インプラント治療にひそむリスクとして、①手術時と②メインテンナス期間にあります。
まず、①手術時、とくにインプラント治療と深く関係していることとして上顎だと上顎洞、下顎だと下顎神経があります。
まず、上顎洞は写真のように鼻の横にある空洞です。この場所は上顎の奥歯とも距離が近く空洞までの距離が近すぎると、空洞に骨を足すような手術が必要になったり、そもそもインプラント治療を受けれない場合もあります。
つぎに②下顎神経です。
下顎神経・動脈は写真のように下顎の中を通っている太い神経・血管です。この神 経・血管までの距離が近すぎると、上顎同様、骨を足す手術が必要になったり、治療できないこともあります。
これらのリスクを回避するためにレントゲン写真やCTによる精密な診査・診断が必要になってきます。
全身状態で注意することとして以下のような方は注意が必要です。
年齢 |
喫煙 |
循環器疾患(高血圧症、心疾患、) |
脳血管障害 |
血液疾患 |
消化器疾患 |
肝機能障害 |
腎機能障害 |
呼吸器疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)) |
糖尿病 |
骨粗鬆症 |
自己免疫疾患 |
精神・神経系疾患(精神疾患、認知症、パーキンソン病) |
アレルギー(薬物、金属、アトピー性皮膚炎) |
腫瘍 |
この中で意外と思われる項目として「喫煙」があります。
喫煙者は粘膜が慢性的に炎症を起こしているため、外科処置後に治癒不全が起こりやすく、インプラント体と骨の生着率が非喫煙者と比較して低いとされています。また、喫煙は歯周病を悪化させる要因であると同時にインプラントにも歯周病を起こす可能性が高く、長期残存率に影響を及ぼします。
インプラントはどれくらい持つのかという質問をよく受けます。
お口の中の環境や使い方など人それぞれなので、明確な答えはでませんが、残存率は10年間で92~95%(厚生労働省より)と言われています。
この数字が低いか高いかは価値観で変わってきますが、かなり高い数値だと思われます。
自動車を例に挙げてみます。自動車の平均寿命は10年前後と言われていますが、乗り方やメンテナンスによって短くなったり、長くなったりします。
丁寧に運転し、定期メンテナンスも通っていれば、長く乗れることは多いですし、荒い運転で、メンテナンスも通わず、調子が悪くなれば修理するような乗り方であれば寿命は短くなってしまいます。自動車だけでなく、モノであればどれも同じことは言えると思います。インプラントもそれにあたります。
治療したら終わりではなく、無茶な使い方はせず、定期メンテナンスに通っていただくことで長期間使用することができるようになります。
インプラント治療の流れは大きく分けて以下のように進んでいきます。
①診査・診断
②一次手術
③二次手術
④被せ物装着
一次手術とはインプラント体を骨の中に埋めていく手術です。
二次手術とはインプラント体と被せ物をつなぐための手術です。
今回は一次手術までの実際の流れを見ていただきます。
骨の量、神経の位置などCTにて診査診断
↑術前の口腔内写真
↑歯肉を切開し、骨にインプラント体が入る穴を形成
骨を削るので、治療中は多少振動します
↑穴を形成するためのドリル
↑形成した穴にインプラント体を埋入
↑実際のインプラント体
↑縫合後
ここまでの治療時間は約1時間です。
1~2週間後に抜糸します。
手術後はお薬を処方しますが、数日腫れや痛みが出ることがあります。
↑レントゲン写真にて最終確認
以上が一次手術の流れになります。
今後は二次手術まで4~6ヶ月程度待ちます。この期間にインプラント体と骨がオッセオインテグレーションします。
その後は、二次手術で再び歯肉を切開しインプラント体とアバットメントと言われるもので歯肉の形態を作っていき、最終的に被せ物を装着していきます。